実現するか? 銀行サービスのサブスク化

ITの進化とともに、社会も産業も大きく変化してきました。そのスピードはめまぐるしく、昨日まで最新だったことが明日には陳腐化してしまうことも珍しくありません。そんな時代にあって、50年近くも金額の変わっていないサービスがあるなんて、信じられますか?
そもそも送金サービスの手数料とは
半世紀近くも金額が変わっていないサービス──それが銀行間送金手数料です。
あなたがある銀行の口座から他の銀行の口座にお金を振り込む場合、手数料を支払わなくてはなりません。その金額は、3万円未満の場合で1件あたり117円、3万円以上なら162円です。
銀行をまたいでお金を送ることができるというのは、考えてみればとても便利な制度です。それを可能にしているのが「全国銀行資金決済ネットワーク」、略して「全銀ネット」が運営する「全銀システム」の存在です。
全銀システムは、銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、農業協同組合など、国内のほぼすべての金融機関をつなぐネットワークで、銀行口座間でお金を送る場合は、まず間違いなくこの「全銀ネット」を通して行われています。
そして振込手数料というのはこの「全銀ネット」の使用料のことで、システムが稼働した1973年以降、約半世紀も金額が変わっていないのです。
かつて送金手数料は一律で決められていましたが、独占禁止法に抵触する可能性があることから各銀行が独自に決めていいというルールに変わりました。しかし、その後も過去の慣習を見直すことなく運用が続いたために、結果的に今も変わっていません。
キャッシュレス化の普及のためにも
今、ようやくこの銀行間送金手数料にメスが入ろうとしています。というのも、銀行間手数料の存在そのものが今の時代にそぐわなくなってきているからです。
例えばキャッシュレス決済の浸透に伴い、少額の決済が増えていますが、数百円の決済のために送金しようとすると、その大半が銀行間送金手数料で消えてしまうことになります。
それは、あまりにもったいないというわけで、当然のことながらある程度の金額が貯まってから、まとめて送金することになります。 すると1ヵ月に一度か二度の送金ということになり、それまで「売上は上がったのに入金はない」という状態になりますから、中小零細企業の資金繰りを悪化させかねません。
こうした懸念からキャッシュレス決済に踏み切れないお店なども多く、日本の金融イノベーションの遅れにもつながっています。そこで公正取引委員会では、銀行間送金手数料の引き下げを提言する方向です。
実は、銀行にとっても送金手数料の存在はあまり嬉しいものではありません。
というのも、銀行は送金のサービスによって大きな利益を得ているわけではなく、むしろ全銀ネットというインフラを維持するためのコストとなっているからです。高コスト体質からの転換が金融機関に求められている今、送金手数料の見直しは、銀行にとっても意義あることなのです。
サブスク化も視野に入れながら
そして、こうした動きからは、将来的な「銀行サービスのサブスク化」というテーマが透けて見えてきます。
ご存じのように、サブスクとはサブスクリプションの略。日本語では定額課金と訳されています。サブスクリプション方式のサービスは既に様々な分野に広がっており、代表的なものとしてはパソコンのソフトや音楽の聴き放題などがあります。
要するに毎月一定の料金を支払うことでそのサービスを利用することができるというもので、わかりやすくいえば「アパートの家賃」のようなものです。最近では、クルマも買うのではなく、サブスクリプションで利用することが可能になっています。
以前このコーナーでもご紹介したように日本の銀行には口座維持手数料がなく、誰でも無料で口座を持つことができました。日本の銀行の口座はとても安全で、安心して利用できますが、その安全を支えるためには当然コストが必要となります。
送金手数料の引き下げに代表されるコスト削減が進むと、当然のことながら、では安全を維持するためのコストはどこから調達するのだという議論になるわけで、「そのためにも銀行サービスにサブスク制の導入を」という声が上がっているのです。
本格的な動きはこれからになりますが、サブスクが様々な業界に広がっている今、案外抵抗なく導入が進むかもしれません。

まとめ
銀行の高コスト構造については大きな課題となっており、支店の見直しや業務の合理化などが急ピッチで進められています。銀行間送金手数料の見直しは、一連のコスト改善にも結びつく取り組みととらえると、わずか数百円のこととはいえ、案外インパクトは大きいのではないでしょうか。