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注目記事2019.09.18

インキュベーターとしての金融

変化の時はチャンスの時です。このコーナーでも何回もご紹介したように、金融業界・金融機関を取り巻く環境はまさに激変の時を迎えており、非金融事業者が画期的なビジネスモデルを携えて新規プレーヤーとして参入を続けています。

さらに大きな流れに目を転じれば、日本の産業界は「第4次産業革命」と呼ばれる変革に直面しています。こうした変革期において新たな成功を支える陰の立て役者ともいえるのが、インキュベーターやアクセラレーターと呼ばれる存在です。

その使命と志とは

インキュベーターやアクセラレーターは、ほぼ同じ意味合いで使われることが多いようです。

インキュベート(incubate)とは「培養」や「育成」を意味しており、アクセラレート(accelerate)は「速力を速める」「加速する」という意味で、ここからも推察できるように創業や企業のタネを見つけて育てるのがインキュベーターで、芽が出た事業の成長を加速させるのがアクセラレーターというニュアンスの違いはあります。

いずれにせよ、新たなビジネスに対して早い時期から成功への支援を行うのがインキュベーターやアクセラレーターのミッションです。

日本でインキュベーターという存在が誕生したのは1980年代中頃とみられています。いうまでもなくインキュベーターは、創業間もない企業への支援を行うため、民間企業が手がけるには決して魅力的とはいえない事業です。

“海のものとも山のものともつかぬ”という表現がぴったりなようなベンチャー企業に対して投資を行うことは大きなリスクであり、投資先の事業が成功してEXIT(株式公開など)にこぎ着けることができたとしても、リターンを得るまでには相当の時間を要するのが普通です。

そのため米国では経済団体などの非営利組織がインキュベーターの役割を果たすことが多いようです。インキュベーターやアクセラレーターの支援を受けるのはベンチャー企業が中心で、最近ではスタートアップという呼ばれ方も定着しています。

しかし、経済産業省では「ベンチャーとは既存大企業の改革も含めた、新しい取り組みへの挑戦」としており、起業家だけにとどまりません。規模の大小を問わず、革新的な技術で新しい事業の成功に挑む組織をベンチャーと呼んでいいでしょう。

リスクマネー供給の意義

ベンチャーやスタートアップが事業を成功させるには、経営の高い志が必要なのはもちろんのこと、多額の資金も不可欠となります。その資金は、確実に返済される保証はありませんから、“融資”というより“投資”です。絶対に戻ってくるという約束のないお金であることから、それはリスクマネーと呼ばれます。

第4次産業革命に代表されるような技術革新を社会実装してビジネスを創造することは、不確実性が高く、また長期的な視点が求められますが、そうした取り組みに対する資金供給者は、現在の日本において必ずしも十分ではありません。また、従来の枠組みにとらわれない業種横断的な事業開発に対し支援が求められるケースも増えていくでしょう。政府系金融機関である日本政策投資銀行(DBJ)はこうしたリスクマネー供給を担う代表的な存在です。

一例が、水素ステーションの普及に向けた取り組みです。

“究極のクリーンエネルギー”といわれる水素エネルギーを使って走るのが次世代モビリティの主役と目されるFCV(燃料電池車)です。FCVは排ガスを一切出さずに走ることができますが、普及のためにはガソリンスタンドの役目を果たす水素ステーションが広がっていかなくてはなりません。

そのため、DBJは自動車・エネルギー業界を担うトップ企業群とともに、政府とも連携し水素ステーションネットワーク合同会社を設立しました。国や自動車メーカー・インフラ事業者に加え、金融投資家などをも巻き込んでいくという、オールジャパンでの協業です。

当然のことながら、水素ステーションネットワーク合同会社の事業がビジネスとして成立するには相当長い時間が必要です。30年後の未来に向け、長期的な視点で投資を行わなくてはなりません。

こうした長期的かつ高いリスクを取る覚悟のもとで供給されるリスクマネーは、私たちの未来に向けた大いなる投資といえるでしょう。

まとめ

「第4次産業革命」では、IoTやビッグデータ、AI等による技術革新が産業構造を大きく変えようとしています。この変革では、個別企業や既存業界の枠組みを超えたオープンな協働により推進されるケースも増えることが予想されます。

この変革期に、経済社会に対する高い視座を持ちながら、リスクマネー供給を通じて産業分野のイノベーションを後押ししようとする金融機関の存在には注目したいところです。