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人生100年時代の金融業界のあり方

#業界研究

2019/06/19

不老不死は人類永遠の夢、のはずでした。

ところが、戦後間もない頃は60歳前後だった日本人の平均寿命がどんどん延びて、今や男性の平均寿命は80歳代にも達し、さぞや「長生きできてハッピー」という声があふれているかと思えば、むしろ“長生きはリスク”とでもいうような空気のほうが強くなっています。

人生100年と言われる今、長寿時代の金融業界のあり方について考えてみます。

金融庁報告書のインパクト

最近物議を醸したのが、金融庁の報告書。

「長寿化によって定年退職後の人生が長くなり、95歳まで生きるには夫婦で約2,000万円の金融資産の取り崩しが必要」との内容に、「公的年金に頼った生活は立ちゆかなくなるのか」と不安が広がりました。 「95歳なんてとても生きられない」という意見もありますが、現在60歳の人の25%は95歳まで生きるという推計もあり、他人事ではなくなってきました。

金融庁の報告書と時を同じくして、ある業界団体が発足しました。「一般社団法人 日本金融ジェロントロジー協会」という名の団体です。ジェロントロジーとは聞き慣れない言葉ですね。一体どんな団体なのでしょうか。

金融ジェロントロジーって何だ?

ジェロントロジーとは老齢へのプロセスについて学際的に研究する比較的新しい学問のことで、「老年学」と訳されることもあります。このジェロントロジーを金融分野と掛け合わせることで、老年期と金融資産のバランスを正しく保てるようにするのが金融ジェロントロジーです。

金融ジェロントロジーでは、健康寿命と一緒に資産寿命も延ばすことを目指すとともに、認知症と資産承継などについてもテーマとなります。キャリタスファイナンスの2019年5月29日付の注目記事でご紹介した「遺言代用信託」も金融ジェロントロジーの取り組みと言えます。

新たに発足した「日本金融ジェロントロジー協会」では、銀行や証券会社、保険などの大手14社が参加した初会合を開催。高齢社会における金融機関の役割などについて議論しました。今後は金融機関の従業員向けに金融ジェロントロジーのインターネット研修を行うほか、高齢者向け金融の知識があることを証明する資格もつくる予定です。

金融庁の発表をきっかけに金融ジェロントロジーに対する関心は一気に高まっていくことが予想され、「日本金融ジェロントロジー協会」の取り組みには注目したいところです。

先行した取り組みの保険業界

人生100年時代を見据えた取り組みという点で先を行くのが、保険業界です。

例えば、長生きすることで資産が枯渇してしまうという“長生きリスク”に備える商品が提供されています。いわゆる「トンチン年金」と呼ばれるもので、一定年齢以上長生きすればするほど多くの年金が受け取れるという商品です。年金を受け取る前に亡くなってしまえば保険料は掛け捨てになってしまいますが、長く生きれば生きるほどトクになる仕組みです。

なお「トンチン年金」とは17世紀にイタリアのロレンツォ・トンティ氏が考え出したとされる「トンチン年金」に由来する名前で、商品名は生命保険各社で異なります。

認知症の不安に備える商品も充実してきました。この分野では認知症にかかったときの治療費や介護費用といった経済的リスクをカバーする商品のほか、認知症の人がトラブルを起こして賠償責任を負ったときに自治体が全額を負担するという商品が注目されています。本人や家族の負担を軽くする点でも高く評価されています。

こうした保険業界の取り組みに続けとばかり、今後も金融業界では金融ジェロントロジーをキーワードとする取り組みが広がっていくことでしょう。

ただ、より俯瞰的な視点で人生100年時代の金融のあり方を見れば、預金から資産の管理・運用を担うアセットマネジメントに力を入れる金融サービスへのニーズが高まることは必須で、今日の超低金利の金融政策に対する疑問の声がさらに大きくなることも考えられます。

まとめ

「人生100年時代、変革する金融サービス」「高齢社会における金融サービスを考える」「人生100年時代の金融サービス・資産活用のあり方に関するシンポジウム」…。

最近はこうしたセミナーやシンポジウムが盛んに開催されています。金融庁の報告書を待つまでもなく、超高齢社会の金融のあり方については多くの人が強い問題意識を持っているのは間違いないことのようです。

この分野の大きな盛り上がりが期待されます。

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