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注目記事2019.03.20

インステックとP2P保険が保険業界を揺るがす

“フィンテック”は現在の金融業界を語る上で避けて通れない大きなキーワードですが、フィンテックの保険版とも言われるのが“インステック”(インシュアテックともいう)です。

インステックとは、Insurance(保険)とTechnology(テクノロジー)を組み合わせた言葉。保険商品の開発や保険業務の改善などに、大きな変革がもたらされようとしています。

デジタルの力で保険が変わる

生命保険や医療保険、損害保険など、私たちの生活にとって保険は身近な存在です。しかしその仕組みは実に複雑。例えば自動車保険で交通事故のリスクを算定するだけでも、一筋縄ではいきません。こうした商品開発にITの力を活用しようというのが、インステックによるアプローチの一例です。

自動車保険ならば、クルマの中に設置されたセンサー等を通じて走行距離や運転速度、急ブレーキなどの膨大な運転情報を収集。ITによってそれらの情報を分析し、“平均的なリスク”ではなくて“固有のリスク”を算定して、日頃から安全運転を心がけている人が有利な割引を受けられるようにするといった工夫が考えられます。このような保険は「テレマティクス保険」とも呼ばれています。

普段からウォーキングなどを心がけて、よく歩いている人には有利な条件が付与される医療保険なども同様の発想です。

保険会社が不要になる?

インステックの分野で象徴的な存在なのが、P2P保険と呼ばれる保険です。

P2Pとはご存じのようにネットワークの世界でよく使われるIT用語で、対等な関係にある端末同士が直接データを送受信することを意味します。

P2P保険とは、同様の発想で、仲間同士が集まって保険のリスクを算出して保険に加入するという仕組みです。同じリスクを有する仲間同士がリスクをシェアするという意味で、シェアリングエコノミーの一環という見方をされることもあります。

例えばよく知っている仲間同士で離婚のリスクに備えるP2P保険のグループをつくれば、仲間の誰かが離婚したときの費用は保険からまかなわれ、離婚者が出なかった場合は全員に掛け金の一部が返金されます。

このP2P保険が革命的なのは、従来のように保険会社を介さずに、加入者たちが直接つながってリスクをシェアし、請求や払い戻しなどの業務もソフトウェアによって自動的に処理できることです。

もちろん現実にはそう単純に済む話ではないのですが、保険会社を介さずに成立する保険のシステムということで、保険会社にとって大きな脅威になるのではないかという見方もされています。

先行する中国に対して日本は…

さて、このインステックの分野で世界をリードしているのが中国です。

中国では保険市場の成長が著しく、生命保険では2017年に日本を抜いて世界第2位の市場となりました。損保も同様に世界2位の市場規模です。

こうした急成長する市場で存在感を増しているのがインステックに強みを発揮するIT系保険会社です。中国ではもともと金融システムが十分に行き渡っていなかったのですが、その弱みがデジタル時代には一転して追い風となり、フィンテックの普及が一気に進みました(リープフロッグ現象)。同様のことがインシュアテックの分野でも起こり、急速に普及しています。もともと同胞同士で事業を展開することを好む中国人の気質に、P2P保険の仕組みはよくなじむのではという指摘もあります。

この勢いは中国国内にとどまらず、日本市場にまで及ぼうとしています。具体的にはインステックの先駆けとされる中国のネット専業保険最大手の衆安保険が、日本の損害保険ジャパン日本興亜と提携。衆安保険は4億人以上の契約者を持つとされており、日本を重要な市場と位置づけて開拓に本腰を入れています。そして将来は日本を足がかりにアジア全体への事業展開を目論んでいるようです。

一方、損害保険ジャパン日本興亜は、先行する衆安保険からノウハウを学ぶことが近道との判断。こうした対応は今後、他社にも広がっていくのではないかとも見られています。

まとめ

インステック、特にP2P保険の浸透は、従来の保険会社にとっては脅威となりかねません。もちろん変革期は、次の成長に向けた大きなチャンスでもあります。保険業界の今後の対応には注目です。