新卒学生のためのインターンシップ・就活準備サイト

Articles
注目記事2019.03.13

指定金融機関はおトク?

指定金融機関という言葉を目にしたことがありますか? 例えば自治体のホームページを開くと、「××県の指定金融機関の一覧」というような説明とともに銀行名が表示されています。これを見ても、公的な機関のお墨付きという信頼性の高さが感じられます。

ただ、この指定金融機関を取り巻く状況も最近は様変わり。その事情を見ていくと、現在の金融業界を取り巻く問題が浮かび上がってきます。

いわば「自治体のメガバンク」

指定金融機関とは、簡単に言えば都道府県や市町村など自治体の「財布を預かる銀行」のような存在です。「自治体のメインバンク」と表現してもいいでしょう。

1963年(昭和38年)の自治法改正で定められ、1964年から導入された制度です。都道府県は“義務”として指定金融機関を指定しなければならないのに対して、市町村の場合は“任意”での指定とされています。

多くの場合はメガバンクがその指名を受けていますが、地方の市町村では古くから地元で利用されてきた信用金庫などが指名されるケースもあります。いずれにせよその地域の自治体の財布を預かるわけですから、大変な名誉であることは間違いありません。

大きなメリットを得るための闘いも

指定金融機関の最大の役割は、自治体が扱う公金の収納や支払い事務などの業務を担うことです。金融機関にとって指定金融機関になるメリットは大きく、以下のような点が魅力であると考えられてきました。

①地域トップ金融機関としてのステイタスが得られる
②それによって地域の企業・個人から厚い信頼が得られる
③自治体という安定した取引先と長期的な取引が行える
④自治体に勤務する職員と個人取引の機会が増える

このように様々なメリットがあるため、「指定金融機関になれるかどうか」は金融機関にとって重要な問題でした。指定を獲得するために激しい競争が繰り広げられたこともあったようです。

よく知られているのが、岐阜県での指定金融機関を巡るゴタゴタです。

ほとんどの都道府県・市町村では、指定金融機関が変わるということはめったに起きません。ところが岐阜県では、これまでに何度も「指定金融機関を変更せよ」という議案が提出されているのです。2013年には、それまで指定金融機関であった十六銀行が継続してその任に当たることが議会で否決されて、2015年からは大垣共立銀行が指定金融機関に。岐阜県では2020年度からは5年ごとの交代制を導入したい考えですが、議会には大垣共立銀行に続けてもらうべきだという意見もあるようで、先行きは不透明です。

行政は継続性が重要ですから、指定金融機関も交代せずに長く続けてもらうことが大切との考えがあります。一方で、競争原理を導入すべきであるという考えもあります。どちらも正論ですから、容易に結論は出そうにありません。

“採算割れ”の取引にうま味なし?

岐阜県のような指定金融機関のポジションを巡る闘いは全国でも珍しいのですが、背景にはやはり地域トップ金融機関の座をかけたプライドの争いがあると言えるでしょう。

ただ、現実的には指定金融機関であることのメリットは、今ではほとんどなくなりました。

指定金融機関になると事務上の経費は銀行側の負担とされるケースが一般的です。行員を派遣するような業務の場合も、人件費は銀行の負担です。従来は、多額の公金を預かることで運用益が期待できること、地方債の引き受けができること、職員の預金・貸付業務の扱いができることなどで、そうしたコストが相殺されてきました。

つまり指定金融機関になること自体は赤字であっても、それ以外の取引で赤字をカバーできる、という図式だったのです。

ところが長引く低金利で経営環境が悪化していることから、金融機関では“採算割れ”を強いられてきた指定金融機関業務を見直さざるを得なくなってきました。 実際、三菱UFJ銀行では関西を中心に約10市で指定金融機関を辞退したことが判明しており、他のメガバンクも「絶対に辞退しないとは言い切れない」という状況となっています。

かつてならば地域のトップ金融機関としての証しだった指定金融機関。自らその座を放棄するということはとても考えられませんでした。それを思うと、指定金融機関からの辞退には、今の金融業界の置かれた厳しさが伺えます。

もっとも赤字覚悟で“採算割れ”の取引を続けるというのは不健全なことです。それを見直すというのは、より健全な経営へ姿勢を改めた結果と前向きに受け止めることもできそうです。

まとめ

都道府県や市町村のメインバンクとしての指定金融機関。地域のトップ金融機関としての証しで、その指定を受けることには多くのメリットがありました。

しかし、低金利下で経営環境が厳しさを増す中、指定金融機関としてのメリットはかなり薄れてきました。自らその座を辞退するメガバンクも出現しており、指定金融機関の位置づけは今後さらに変わっていきそうです。