金融業界は転勤が多いって本当?
ビジネスパーソンにとって転勤は避けられないこと。特に大きい会社なら日本中どこでも、さらには海外にも転勤の可能性があります。その中でも、特に転勤が多いと言われるのが金融機関。なぜなのでしょうか。
3年目をメドに繰り返される転勤
金融業界では2~3年のペースで異動するのが一般的です。「親と暮らしたい」「地元が好きだから」という理由で転勤のない地方銀行を選ぶ人も目につきますが、都市銀行や大手証券、保険などでは転居を伴う異動は日常茶飯事。北海道から九州といったような転勤だって珍しくありません。
しかも、年齢や家族の状況などに関係なく異動が発生します。
念願の持ち家を手に入れたところで転勤という話はよくありますし、「子供が受験を控えているのに転勤が決まった」ということで、やむなく単身赴任を選択するケースも多くあります。ベテランになっても常に転勤の可能性はつきまとうのです。
もっとも最近では、親の介護などの事情に配慮して、なるべく転居を伴わない形での異動となるケースも増えているようです。
不正防止と人材育成のために
金融業界で転勤が多い理由は、はっきりしています。
一つが不正防止のためです。大きなお金を扱う仕事なので、他の業界に比べて横領や不正融資といった不正に手を染めるリスクは高く、たとえ本人に悪意がまったくないとしても、他人から悪事を企てられる可能性もあります。
同じ地域に長く根を張ることはそれだけ人間関係が広がり、リスクも高まるため、転勤を繰り返すことで濃密な人間関係が生まれにくいようにしているわけです。
そして、もう一つの理由が、社員に経験を積ませるためです。
都市と地方では経済事情がまったく異なりますし、中小企業が多い土地、飲食業が多い土地、農業が盛んな土地と、地域によってカラーはずいぶん違います。さらに企業の倒産が続くなど、金融機関に強い逆風が吹いている土地もあるでしょう。
そうした様々な土地で営業や融資などの経験を積んでいくことで、金融のプロとしてのスキルを磨くことができるわけです。
将来、“潰れかけている会社を立て直す”というような責任の重い仕事を担うことになったとき、過去に修羅場を経験してきたことは大きな武器となるでしょう。そんなたくましさを身につけさせるために転勤させるという側面もあります。
「転勤は出世コース」という言われ方をされることが多いのもそのためです。
デメリットばかりではない
転勤は確かに大変なことですが、決してマイナスばかりではありません。メリットも多くあります。
知らない土地、初めての土地で生活をすることで人生経験に深みが生まれ、人脈が広がるというのは大きなメリットです。様々な出会いは将来の大きな財産となるでしょう。
また、新しい土地へ赴任するたび心機一転、気持ちを切り替えてリスタートしようというモチベーションも生まれます。
さらに、人間関係の悩みがリセットされるというのも見逃せないメリットです。組織の一員として働く上で人間関係の軋轢は避けて通れません。折り合いの悪い上司、相性の悪い同僚の存在は否定できないところです。そうしたマイナスの関係を、しこりを残すことなくリセットできるのも転勤の隠れたメリットと言えるでしょう。
転居する人材を活かす仕組みも
一方で、転勤とは逆のケース、つまり結婚に伴って地元を離れることになる場合や、夫の転勤に伴って自分も一緒に転居するという、主に女性が直面する問題もあります。
地方銀行に勤めていた優秀な女性が、夫が全国転勤のある企業に勤めているため、心ならずも仕事を辞めざるを得なくなる、というケースは案外多いものです。これは銀行にとっても大きな損失でしょう。
そこで、2015年に全国64行で組織する「輝く女性の活躍を加速する地銀頭取の会」が設立したのが「地銀人材バンク」です。
これは、上記のようなケースで女性が地元の地方銀行を退職することになった場合、転居先の地方銀行が中途入社の形で受け入れるという仕組みの制度です。働く女性は仕事を辞めずに済みますし、受け入れる地方銀行は即戦力を採用できるというメリットがあります。
「地銀人材バンク」のこの仕組みは好評なようで、同じ仕組みは地域生協など他の業界にも普及し始めています。
まとめ
金融業界につきものの転勤。大きな目的は不正防止のためですが、社員にとってはデメリットばかりでなくメリットもあります。前向きに受け止めて自分のプラスにしたいものです。
また、転勤とは別のパターンで、家庭の事情で地元の銀行を辞めざるを得なくなった行員を転居先の地方銀行で受け入れる仕組みも誕生するなど、優秀な人材を活かす仕組みも充実してきました。