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注目記事2017.03.22

地方創生で金融機関が果たすべき役割パート③ 主役となる地域金融機関の動きや事例

地方創生における金融機関の役割に関する特集の第三弾は、地方銀行や信用組合、信用金庫などの地域金融機関の動きなどについて。地域企業や行政などと密接なつながりを持ち、いわば金融サイドの主役ともいえるこれら金融機関の動向や事例などについてご紹介します。

全国銀行協会の提言や事例

まずは、全国銀行協会が発表した提言や事例などをご紹介します。

この協会は日本国内の銀行を代表する団体で、都市銀行や信託銀行そして地方銀行などほとんどの銀行が参加しています。同協会では、政府による地方創生への取り組みに対し、2015年3月に「地方創生に向けた銀行界の取り組みと課題」と題した政策提言レポートを発表しています(※1)。

主な内容は、地方創生で金融機関に求められる役割の提言とそれらに関する取り組みの事例を紹介したもので、特に地域金融機関と密接に関連した事項が多くを占めています。概要は以下の通りです。

【提言1】目利き力を備えた人材の育成

これは、地方企業の経営改善や生産性向上などを今後更に支援していくには、金融機関は職員ひとり1人が取引先などへの「目利き力」を向上させる必要がある、というものです。

この「目利き力」について提言では、相手企業の事業内容や経営状況などをより深く、正確に把握できる力だとしています。

同協会は、金融機関が融資取引などで相手企業の事業内容や経営状況を把握する方法として、従来は財務情報などを中心にしていることを挙げています。そして、今後はそのような「数字だけ」の把握では不十分だとし、数字に表れないモノの流れや経営者の考え方なども含め、「より深く、正確に」把握することが重要だと指摘しています。

また、提言では「目利き力」向上が必要な理由として、みずほ総合研究所が中小企業庁からの委託で2011年に実施した、全国2万件の中小企業を対象としたアンケート結果も挙げています(※2)。

それによると、多くの中小企業が金融機関の経営支援に対し「担当者の企業や業界に対する理解不足」「企業ニーズを十分に把握していない状況でのセールス」などに不満を持つことが判明。そういった現状を改善し、地方企業などに適切な支援を行うための施策が今回の「目利き力」向上なのです。

さらに、提言では「目利き力」を向上させる取り組みの具体的事例として、山梨中央銀行(山梨県)の試みを紹介しています。

同銀行では、2012年4月から山梨県の地場産業を中心とする企業へ行員を1年間派遣する制度を実施。2015年までの4年間で、計40人の行員をニット製造や日本酒製造、交通・観光業などさまざまな業種の企業に派遣しています。

この制度は派遣した行員たちに、派遣先企業での実務を通じて中小企業が抱える課題を肌で体験させることで、「目利き力」向上や企業への親身な対応を身につけさせることが目的です。派遣終了後に同銀行へ戻った行員たちは、本部の融資審査部門や経営支援スタッフの中心として活躍しているそうです。

【提言2】積極的な企業ニーズの発掘

政府が提唱する地方創生の総合戦略では、地域に応じた「日本型イノベーション・エコシステム」の形成も必要だとしています。これは、その地域の行政、大学、研究機関、企業、金融機関などの各プレーヤーが相互に関与し、生態系システムのように絶えずイノベーションが創出される環境や状態をつくり出すことを意味します。

同提言ではこの政策実現のためには、地域企業とのネットワークを持つ金融機関が、行政や大学などの機関と企業を結ぶコーディネーター的役割を持つことが必要だとしています。また、その職務内容は、単に大学などとの連携を締結し企業の相談に乗るだけでなく、企業が潜在的に持つニーズを積極的に発掘することも金融機関には求められる、と提言しています。

その具体例として、同協会では阿波銀行(徳島県)が徳島大学と連携した事例を紹介しています。これは、取引先企業の研究開発ニーズと、徳島大学が持つシーズ(研究技術、ノウハウ)を結び付ける役割を阿波銀行が担当したものです。

企業の課題抽出から大学研究者とのマッチング、政府系研究開発資金からの融資獲得、ビジネスのプランニング、事業化までの一連の流れにおいて、阿波銀行が積極的に関与。2015年12月現在で、進行中の共同研究などの案件56件、これまで10件の事業化にも成功しています。

【提言3】地域特性に応じたコンサルティング機能の発揮

政府の総合戦略では、従来行われてきた政策には、全国一律の手法や地域に浸透しない表面的な施策があったことを問題点として指摘しています。同協会でもそれを挙げ、地域の実情などに合わない政策では、「結果的に地域間の人口の奪い合いにしかならず、地方創生の実現は困難である」と言及しています。

そこで提言では、金融機関としても「適切に現状分析を行い、各地域の強みと弱みを十分に把握したうえで、真に地域に浸透するコンサルティング」が重要だとしています。

そのような事例として、同協会は千葉興業銀行(千葉県)が行った農業の6次産業化に向けたコンサルティングを紹介。これは、南房総市や地元企業のヤマト、千葉興業銀行が連携し、観光客誘致のための「魅せるトマト農園」を設立した案件です。

具体的には、農園で栽培するトマトの実の鑑賞や、収穫したトマトでつくった料理が食べられるバスツアーなどを事業化。この事業で千葉興業銀行は、観光事業構想のアドバイスや、補助事業申請のサポート、事業資金の金融支援などを実施しています。

また、この事例のほかにも農業経営者に対し融資はもちろん、新たな販路の紹介や技術者の紹介など、さまざまな農業支援をおこなっています。

【提言4】地域企業の魅力の発信などを通じた定住人口・交流人口の増加

東京圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)への一極集中に歯止めをかけ、地方の定住人口・交流人口の増加を図るための金融機関の役割に関する提言です。

具体的には、高い技術力や専門性を持ちながら、個社レベルではPRがあまりできていないような地方企業の魅力などを、若者世代を中心に発信するというもの。若者世代の東京圏への転入数は、この特集の第一弾でも紹介した通り、著しい増加傾向にあり、それが地域の労働力不足へとつながっています。そこで提言では、そのような動きに歯止めを掛けるためには、若者世代に対する地方への就労促進が必要だとしています。

提言では、この取り組みに関する具体的事例として、2015年に西京銀行(山口県)が関わった山口県内の企業視察と観光を組み合わせたツアーを紹介しています。

「若旅inやまぐち2015」と題されたこのツアーは、県内の流入人口の増加、若い世代の就労・定住の促進や観光市場の活性化を図ったものです。山口県と共催で行ったこのツアーで西京銀行は、訪問企業の選定や関係者との調整などを実施。参加学生の中から、訪問企業への就職者や内定者が出るなどの成果を挙げています。

全国地方銀行協会の動き

金融機関の団体はほかにも、地方銀行の多くが加盟する全国地方銀行協会があります。同協会では、地域金融機関が地方創生に関して行っている取り組みを「地域密着型金融」と名付け推進しており、その取り組みの事例を定期的に公表しています(※3)。

公表された事例の中には、まず各地の地域金融機関による観光振興の支援例があります。例えば、観光客増加などを目的に大分銀行(大分県)がリリースした観光アプリ「大分めぐりん」、訪日外国人観光客との会話サポートとして静岡銀行(静岡県)が制作した地元企業向けシート「指すだけ会話ナビ」などです。

また、オール宮崎産地ビール「穂倉金生」の増産支援をした宮崎銀行(宮崎県)など、地域の特性を活かしたローカルブランド力の向上への支援事例も紹介。ほかにも、各地のさまざまな施策にいかに地域金融機関が貢献しているかを取り上げています。

まとめ

地方創生に対する金融機関の動きついては、ほかにもいわゆるメガバンク、都市銀行の動向も注目されています。

例えば、三菱東京UFJ銀行は、2016年1月に地方創生に貢献する企業に融資や経営相談などの支援を行う「MUFG地方創生ファンド」を設立。また、みずほ銀行では企業同士が効率的に仕入れ先や販売先などを見つけるマッチングイベント「みずほビジネスマッチングフォーラム」に、地方創生編の組み込みを実施。他社の都市銀行も含め、今後もさまざまな取り組みが行われることが期待されています。

このように、地方創生において金融機関には地域金融機関に限らず都市銀行などのメガバンクも含めて、融資など従来からの資金面の支援だけでなく、より多くの役割が期待されています。中でも地方銀行などの地域金融機関は、前述の通り、地域により密着しているためその役割は重大だといえるでしょう。今後もさらなる動向に注目したいところです。


出典 ※1:一般社団法人 全国銀行協会 地方創生に向けた銀行界の取組みと課題
※2:みずほ総合研究所 地域金融機関における地域密着型金融の取組
※3:一般社団法人全国地方銀行協会 地方銀行における「地域密着型金融」に関する取組み状況