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注目記事2017.03.01

機関投資家によるアルゴリズム取引(システムトレード)とは?

金融市場においては、海外の政変や企業のスキャンダル、政治家の言動などのニュースによって株価や為替が大きく変動することがよくあります。ところが、最近ではそのような大きなニュースがないにも関わらず、市場価格が急に乱高下するケースも増えてきています。そして、これらの要因のひとつとしてよく話題になるのが、機関投資家による「アルゴリズム取引」です。一体、どういうものなのかを解説します。

コンピュータを使った自動売買

「アルゴリズム取引」は、「システムトレード」とも呼ばれ、コンピュータを駆使した取引のことです。

コンピュータシステムが、株価や出来高などに応じ、株式売買注文の数量やタイミングを自動的に決めて、注文を繰り返すような取引です。利用については、機関投資家が発注時に証券会社が提供している複数のアルゴリズム(執行ストラテジー)から、自分に合うモノを選択するのが一般的になっています。

「アルゴリズム取引」は、証券会社独自のノウハウをプログラミングとして盛り込むことで、機関投資家により有利な価格で約定できるようになっているのが特徴です。

コンピュータを駆使した取引には、従来から証券会社の電子取引執行システムを活用し取引所に直接注文を自動執行するDMA(ダイレクト・マーケティング・アクセス)というものもあります。この場合は「アルゴリズム取引」のようにコンピュータがより有利な価格を判断するプログラミングを駆使して取引することは行いませんので、区別することが必要です。

ちなみに、「アルゴリズム取引」とよく似たもので、HFT(ハイ・フリクエンシー・トレーディング)というものもあります。これは、高頻度取引または超高速取引と呼ばれています。

HFTを行っている証券会社は、取引所またはそれに隣接した場所に自社の高性能サーバーを設置し、それを介して自社のコンピュータを稼働させ、瞬きする間に数千回の取引を行うことができるのです。

HFTを行うには、巨大な資金を投じた研究や投資環境の整備、ITや金融工学の専門家などが必要で、個人投資家ができるレベルではありません。

HFTを実施する場合も、コンピュータによる執行が欠かせませんが、それには超高速執行する手順を具体化するプログラムが重要です。 一方「アルゴリズム取引」では、市場データの分析をベースにつくられるものであり、HFTとは直接関係はありません。執行が遅いアルゴリズムトレードは数多く存在します。すなわち、アルゴリズムトレードのすべてがHFTを前提にするものではないと言えます。

アルゴリズム取引の代表例

「アルゴリズム取引」にはさまざまな種類がありますが、代表的なものは以下の通りです。


(1)ステルス注文

市場に気づかれないようにカムフラージュして注文を出す方法です。板(コンピュータ画面上に表示される売買状況)には、たいした注文がなかったはずなのに、一般の投資家などが注文を入れようとするとコンピュータがそれを察知、瞬時に注文を入れてしまうといった手法です。


(2)ニュースに反応するアルゴリズム

社会の動きや異変、経済指数の発表といったニュースを監視するコンピュータが、取引に必要な情報が出たときに即座に反応し、自動的に注文を出す手法です。地震速報で一定の震度以上の数値が出たら売り、ある企業で業績アップが報じられたら買い、といったことを即座に行うことで、機会損失を減らすのが目的です。


(3)見せ板

他の投資家が注文を入れるように、売買の意思がないのにある銘柄などに大きな注文を出す「見せ板」という手法です。値動きの活性化を高めるためのアルゴリズムで、沈滞した相場に動きを出し、その動きで利益を得るのが目的です。


ほかにも、自らの取引によって株価などが乱高下しないように売買注文を分散したり(アイスバーグ注文)、流動性が高い先物取引などで、市場の反応を監視しながら注文を調整する(TWAP注文)など、コンピュータによりさまざまな取引を自動で行うことができます。

問題点と規制の動き

このように、多くの取引を自動で行える「アルゴリズム取引」ですが、特に前述のHFTに関して、


・市場価格の急激な乱高下を引き起こす

・個人投資家が全く太刀打ちできず不公平である


といった批判がなされています。

これら批判の背景となったのは、2010年の「フラッシュ・クラッシュ」です。これは、アメリカでダウ工業株30種平均が一時、前日比で1,000ドル近く暴落し、その後1分半で元の水準まで急騰したという事件です。その原因がHFTだと言われており、その後規制の動きが出てくるきっかけになりました。

また、2014年に発刊されたマイケル・ルイス氏のノンフィクション小説『フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち』も、HFT問題を表面化にしました。これは、HFTにより株式市場が不正な手段で操られているという内容で、欧米では大きな反響を呼んでいます。

このような動きにより、EU(欧州連合)議会では、HFTなどの規制を含む金融商品市場指令(MiFID)の見直しを承認、今後加盟国で法制化され2017年1月以降実施される予定になっています。

ちなみに、日本においても東京証券取引所が2010年に新株式取引システム「アローヘッド」を導入し、HFTの利用が可能となりました。現状では、まだ欧米ほどの批判の高まりはありませんが、取引高の15〜20%がHFTによるものという推測もあり、今後その存在の是非が話題となる可能性もあります。

まとめ

「アルゴリズム取引」の発祥は1980年代。アメリカの証券会社モルガン・スタンレーが、先物取引の一種である指数裁定取引をコンピュータで自動的に行うプログラムを開発したのが始まりと言われています。

その後、インターネットが普及し、コンピュータやシステムの精度が飛躍的に進歩したことにより、欧米を中心にこの取引手法が普及していったのです。

日本市場でも、前述の通り2010年よりHFTが利用可能となっているだけに、これからの金融市場に大きな影響を及ぼすことは必須です。その意味で、今後も注目したいキーワードのひとつだと言えるでしょう。